清凉寺–内臓模型が封入された釈迦如来
今日は、京都市右京区にある清凉寺(嵯峨釈迦堂)について説明します。
1 お寺の歴史
まずはお寺の歴史を簡単に説明します。このお寺は二つのステップで成立しているので、それぞれ説明してゆきます。
①第一ステップ
もともとここには、源融(みなもとのとおる)という貴族の別荘「棲霞観(せいかかん)」がありました。源融は、源氏物語の光源氏のモデルの候補の一人としても有名らしいです。
895年の彼の死後、子どもが棲霞観をお寺に改め、本尊の阿弥陀三尊(清凉寺2–仏像の歴史の過渡期にある阿弥陀三尊 - 仏像好きのブログを参照)を新たに作ります。こうしてできたのが棲霞寺というお寺です。
②第二ステップ
ついで10世紀終わり頃、このお寺に奝然という僧侶が訪れ、この地に中国から持ってきた釈迦如来立像(後述)を安置するお寺を建てたいと言ってきました。当時の棲霞寺の状況はよくわかりませんが、おそらく衰退しつつあったのではないかと、勝手に推測しています。
そして、奝然の死後弟子の努力によってついにお寺が完成し、清凉寺という名前がつけられました。もとあった棲霞寺については、この清凉寺に吸収されたと推測しています。
以上がお寺の歴史です。
2 見所
2−1 奝然伝来の釈迦如来
次に見所を説明します。
見所は二つあるのですが、長くなってしまうので、二つの記事に分けて書きます。ここでは、そのうちの一つ釈迦如来立像のみを説明します。
これは、奝然が中国から持ってきたものです。伝説によると、釈迦が生きている時代にインドにおいてその姿を映したものが中国に伝わり、それが日本に伝わったものである(あくまで伝説です。)ことから、「三国伝来の釈迦像」と呼ばれます。
この仏像は、中国から来たからなのか、当時の日本の仏像とは姿がやや異なります。例えば、衣の着方が、偏袒右肩(へんたんうけん)といって仏像によくある片方の肩に羽織るスタイルではなく、両肩にしっかりとかけて胸をあらわにしません。
この仏像は当時の多くの日本人に崇敬され、「清凉寺式釈迦如来」という様式で数多くの模刻が作られました。僕が知る限り、このように全国的に模刻が造られた像は、長野善光寺の阿弥陀三尊を除けば例がありません。
2−2 人体模型とも言いうる釈迦如来
さて、ちょっと難しくなりましたが、この像のどこがすごいのかを説明します。この象の凄さは「見えないところへのこだわりがすごい」ことにあります。
この像は背中が開きます。戦後間も無く、ここを開けてみた研究者がいました。すると、なんとまあ中には大量の色とりどりの布切れ、大量の長い紐に覆われた心臓、肺などの臓器の模型が出てきたのです。布切れは血液や筋肉などを、紐は血管や神経を表したもので、今風に言うと人体模型のようになっているのです。
さらに驚くべきは、外から見れば閉じている口には歯(の実物)、目と鼻の穴は実際の体のように像の内部で繋がっているのです。もう完全に人体模型です。世界最古の臓器の模型であり、他の分野からも注目されているそうです。
ではなぜこんなものを作ったのか、それは端的に、この像を生きた釈迦に近づけようとした造像者のこだわりだと考えるしかありません。とんでもない話です。
最後に一点だけ疑問があります。この像の頭部の中部には、脳に見立てたあるものが入っています。私は脳みそということだから、ウニのような模型が入っているかと思ったら、実は中にあるのは「鏡」です。そう、造像者は脳を鏡に見立てたのです。
なぜなのでしょうか。これに関しては全くわかりませんでした。
以下はどこにも書かれていない本当に雑な予想となりますが、私の考えを述べます。
昔の人間は、人の心は心臓にあると考えていたという話を聞いたことがあります。例えばアリストテレスもそう説いたらしいです。
また、人は、心での情報処理のために目や耳といった感覚器官から情報をインプットし、また逆に、情報処理の結果を顔の表情としてアウトプットします。
そして、心臓と顔までの経路は、横から見ると逆L字形をしているため、それぞれから直進する情報を90度反射させるものが必要です。昔の人は、その役割を担うのが頭部だと考えたのではないでしょうか。
すると、脳を表現する最も良い模型は、直進する光を反射する鏡ということになりそうです。
だから脳に鏡をはめ込んだのではないでしょうか。
以上,勝手な予想でした。皆さんも何か意見がありましたらコメントください。
3 最後に
最後に注意点があります。本尊の釈迦如来立像は,春と秋の特別公開の時期及び毎月8日以外は,原則として公開していません。しかし,法要など用事があると公開しているらしく,たまたま行ってみたら公開していたと言うことが結構あります(というか,私は過去に特別公開がなされていない時期に2回行きましたが,2回とも開いていました。お寺の係員に聞いても,開いていることが「結構ある」そうです)。
なので,時間があれば挑戦して見ても良いと思われます。
ということで、今日は清凉寺について説明しました。別の記事で,清凉寺のもう一つの見所である阿弥陀三尊像についても説明していますので,こちらもぜひご覧ください。
それでは。