山田大雅の仏像ブログ

仏像好きがお寺や仏像などについて解説します。

永観堂–横を向いた阿弥陀如来があるお寺

今日は、京都市左京区にある永観堂(えいかんどう)(正式には禅林寺。)について説明します。

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永観堂の紅葉の様子。ちょっとまだ早いかも。

1 永観堂の概要

永観堂を語る上で外すことができない重要人物は、このお寺の中興の祖でお寺の名前の由来ともなった「永観(ようかん)」という僧侶です。

永観堂は9世紀に真言宗のお寺として創建されましたが、だんだんと荒廃してゆきます。

そんな永観堂を復興し、さらに念仏(南無阿弥陀仏と唱えること。)の信仰を持ち込んだのが、この永観という僧侶なのです。

今は「秋は紅葉の永観堂」と言われるように、紅葉の名所として人気を誇っています。

2 永観堂の見所

2−1    横を向く阿弥陀如来

永観堂の見所は、紅葉はもちろんのこととして、「見返り阿弥陀如来立像」です。

この仏像の何がすごいか。それは端的に、仏像が正面を向いておらず、仏様から見て左側に顔をむけていることです。名前の「見返り」は、これに由来します。

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永観堂の見返り阿弥陀如来立像(12世紀後半,重文)

私は日本の仏像をあちこち見て参りましたが、顔を正面に向けていない仏像は他に見たことがありません。極めて珍しいことです。

2−2 なぜ横を向いているのか

ではなぜ横を向いているのでしょうか。これについては、永観にまつわるあるエピソードが元となっています。

前述の通り、永観は永観堂に念仏の信仰を持ち込んだ人物です。

あるとき彼は、永観堂念仏行道(ねんぶつぎょうどう)を行なっていました。

念仏行道は聞きなれない言葉ですが、阿弥陀様の仏像をお堂に置き、「南無阿弥陀仏」と口に出して唱えたり、あるいは心の中で唱えたりしながら、そのお堂の中をあちこち歩き回るという修行で、これを睡眠なども挟まず、2〜3日ぶっ通しで行い続けるというとてもきついものです。

さて、念仏行道をしていた永観ですが、朝方、ふと自分の前に何やら先導を切って歩く人の後ろ姿を発見します。

睡眠も取らず疲れ切っていた永観がその影をよく見ると、なんとお堂に安置されていた阿弥陀でした。

永観は呆気にとられて、歩いていた足を止めます。するとその阿弥陀様は、自分の後ろにいた永観が足を止めたのを知り、顔を左に振り返ってこう言いました。

「永観、遅し。」(「永観、何足を止めている。遅いぞ。早くついてきなさい。」という意味。)

永観はこの振り返った姿の阿弥陀様に感動し、「どうかそのままの姿で像に戻ってください」と頼みました。そうして生まれたのが、首を横に向けた阿弥陀如来の仏像です。

2−3 真相は?

以上がこの像についての言い伝えです。もちろん伝説なのですが、どうしてこのような伝説が生じたのか、少し考察してみます。

念仏行道という儀式自体は天台系の念仏信仰として、かつて本当に存在しました。

2〜3日睡眠もとらず歩き回るわけですから、今風に言うとトランス状態になることもあるわけです。永観は、そんなトランス状態の中で、上に書いたような神秘体験をしたのでしょう。

ちなみに今の阿弥陀如来は、永観がなくなった後の12世紀後半に作られたものと言われており、重要文化財に指定されています。

3 最後に

ということで、今日は永観堂について説明しました。皆さんも、振り返った姿の阿弥陀如来をぜひ見てみてください。最後に、永観堂の出口にはこんな面白い表札がありましたので、これを紹介しておきます。

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永観堂の出口にある立て看板。

それでは!